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いま×薩摩vol.14

偉人とシェアする鹿児島の暮らし

私が明治維新に関わるようになったのはここ数年の事だ。鹿児島で生まれ育った身とはいえ、この150周年という機運の高まりがなければ、今も「銅像になっている人たちが活躍した出来事」としか認識していなかっただろう。

それくらい明治維新は私にとって遠くの出来事だった。

印刷会社に勤めるディレクターとして、主に印刷物やウェブサイトで明治維新を紹介するという企画を行ってきた。定番の西郷さん、大久保さんなど偉人の紹介にはじまり、彼らを支えた女性たちを紹介する企画や、薩摩藩から英国に旅立った留学生たちの留学生活を追うコンテンツを制作したこともある。

そのような企画を通して、徐々に私のなかで彼らが「生きて」きた。彼らは単なる伝記や歴史の中の人物なのではなく、怒ったり疲れたり、でもやっぱり頑張って生きた人間なのだということがわかってきたのだ。

そうなると歴史は面白くなってくる。特に鹿児島は幕末の史跡の宝庫だし、生活の中にも彼らの姿が見える。

私が小さい頃から通っていた吹上温泉も、西郷さんが湯治に来ていたことは知っていたが、維新関係の仕事が終わって温泉に入るときなど「西郷さんはきっと堅苦しい仕事に疲れて、今の私と同じ気持ちでこのお湯に浸かったんだろうなあ」などと想像すると、あの石像の固い顔ではなく、「あ〜!」と幸せな声をあげるおじさんの顔が浮かんできて微笑ましい。

毎年花見に出かける甲突川も、昔は桜もなかっただろうが、春先の暖かい日に川岸を散歩する藩士たちが想像できる。英国に留学が決まった藩士たちは、もしかしたら今の学生たちのように、歩きながら互いに英語の練習でもしていたかもしれない。

150年前日本を変えようと頑張った人たちと、私たちは暮らしをシェアしている。そう考えるとさらに鹿児島が面白く見える。そうして、私ももうちょっと頑張れるかもしれない、と思うのだ。

いま×薩摩vol.14

鶴田 真由美

FLOW | webと印刷物のディレクター

鹿児島生まれ。県内の印刷会社でwebと印刷物のディレクターとして明治維新関係の仕事に携わる。現在はフリーランスとしてFLOWの屋号で活動中。温泉と旅と猫が好きです。

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