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いま×薩摩vol.19

郷土誌で明治維新を訪ねる

古本屋を生業としていながら、老眼に追い打ちをかけるように、右目が黄斑変性症という病気になり、随分読書から離れていました。ところが、地元紙に書評を書かせていただく機会があったため、新刊書店で明治維新の本を立て続けに購入しています。例えば、有馬新七が綴った日記を小説にした本からは、有馬は決して「おいごと刺せ」と朝から晩まで吠え続ける人ではなく、むしろその逆の性格であったということを知りました。読書から得る知識や蘊蓄は楽しいですね。

伊牟田比呂多著「征韓論政変の真相」、原田伊織著「明治維新という過ち」等々を読み、明治維新の解釈や考え方は、多彩だと改めて思いました。特に西郷隆盛についての毀誉褒貶は極端で、西郷の実像を理解するのは本当に難しいですね。

ヨーロッパ中心史観を批判した、ドイツの歴史学者シュペングラーの言葉に、「去りゆく一切は比喩にすぎない」とあります。時間が過ぎる中で事実は取捨選択され、解釈も変わり史実でさえもたとえ話であるという意味です。新資料の発見など、新たな視点で書かれる新刊本を読むことも大事ですが、昔の歴史家や小説家などが書いた西郷の本も読むことで、自分にとっての西郷隆盛がさらに幅広く深く味わえると思います。

疾風怒濤の明治維新、薩摩が深く関わり維新を成し遂げた喜びや、西南戦争という大きな悲しみを読書で学んでみませんか。古本屋は、昔刊行された良書を次の世代に渡すのが仕事です。明治維新150年の節目に向けて、古本で鹿児島の歴史の魅力を届けたいと思います。

いま×薩摩vol.19

安井 一之

古書リゼット店主

1957年、鹿児島市生まれ。市内名山町の、食堂・カフェ・和服店・イラストレーター事務所などが同居する長屋「レトロフト」の番頭。県外からの若い旅人が羽を休めたり、外国人が和服を着たり、読書と珈琲で一時となにかと楽しめる場所です。
ダレヤメ(晩酌)は一週間に十日ほど。「(鹿児島名物)鳥刺しをこよなく愛するオヤジの会」重鎮(?)。昭和の香りがプンプンする名山堀を楽しんでいます。

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